別府と言えば日本一豊富な湧水量と多種多様な泉質を誇る日本を代表する温泉地ですが、その玄関口である別府駅に降り立つと駅前にはひと際目立つ銅像が立っています。一般に目にする凛とした偉人の銅像とは違い、マントを靡かせ陽気に踊るまるで喜劇役者のような姿が印象的で、その台座にはなんと「ぴかぴかおじさん」と滑稽な名前が刻まれています。その人物こそ地元の人なら誰でも知っている大の人気者油屋熊八です。彼こそは私財を投げうってまで別府や湯布院をアピールして国内有数の一大観光地に仕立て上げた、温泉県大分の父とも言われる人物なのです。
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彼の功績は「ハードからソフトへ」「コンテンツの充実」「ユニークな宣伝」そして「ワンランク上のおもてなし」など今でも唱えられる地域振興やリゾート開発の極意を100年以上も前に実践していた事でしょう。例えば彼が1909年に創業した「亀の井旅館」は心配りの行き届いたサービスが反響を呼び、数多くの著名人が訪れる一流ホテルに成長しました。1925年富士山頂に「山は富士、海は瀬戸内、湯は別府」というキャッチコピー書いた標柱を建て、1927年には大阪日日新聞の新日本百景人気投票で地元の組織票を動員して一位を獲得すると、好機を逃さず「当選御礼、別府温泉」と書いた宣伝ビラを阪神上空から撒いたというから驚きです。
また1928年には和装が一般的な時代に日本で初めて洋装の若い女性バスガイドを乗せた温泉地獄めぐりの定期観光バスで大盛況を収めました。テレビもネットも無い時代、その卓越した先見性と誰も思いつかない奇抜なアイディアを平気で実践する宣伝戦略で自らの事業の成功と地元別府の発展を実現したのです。
その油屋熊八が温泉保養地とスポーツを組み合わせた新しいレジャーの形として提案したアイディアを元に1930年に開設されたのが「別府ゴルフ倶楽部」なのです。当時の別府への観光客のアクセスは瀬戸内海航路が重要な役割を果たし、その大阪と別府を結ぶ航路を運航していた大阪商船によりこのゴルフコースが造られました。
別府ゴルフ倶楽部は九州で現存するコースをしては雲仙ゴルフ倶楽部に次ぎ二番目に古い歴史を誇り、日本全国でも廣野や川奈(富士コース)より古く、我孫子などと並んで15番目の古さです。
設計者は福井寛治と伊藤長蔵で、福井は日本初のプロゴルファーであり、伊藤は海外留学でコース設計に触れ、帰国後はC.Hアリソンの下で設計を学んで廣野創設に尽力するなど関西ゴルフ界の重鎮で日本のゴルフ発展の礎を築いた人物です。
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開設当初は「別府ゴルフリンクス」の名称で9ホールのみでしたが、10年後の1940年に18ホールに拡張し(鶴見コース)、更に1955年と1993年にそれぞれ9ホールが増設されて(由布コース)九州で初めて36ホールを持つビックコースとなりました。戦後は米軍の接収も経て大阪商船が手放してから後、経営は幾度か変わりましたが現在はPGMの傘下のコースとして運営されています。
大分空港などから高速道路でのアクセスも良く、別府市内から約10分の大分自動車道速見IC出口近くにあるコース入口から300mほど坂を登れば天辺に建つ立派なクラブハウスに到着します。
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別府に宿泊してラウンドしたのは伝統ある鶴見コースで、設立当初からの自然の地形を活かした手作り感のあるクラッシックなコースでした。フェアウェーは広く見晴らしの良いホールが多いですが、なだらかな丘陵に沿って常に傾斜があり難易度を上げています。
訪れた日は気温が急に上がったのか、朝コースに着くと深い霧に深い霧に覆われ、大きなクラブハウスがまるで雲の上に浮いているような光景でした。スタート時間になっても霧は晴れず遅れは必至かと思いましたが、前の組は何の躊躇もなく定刻にスタートして行きました。
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この辺りではスタート時が霧に覆われる事は良くあるのかも知れませんが、初めて廻る身にとってはコースレイアウトはおろかどこに向かって打てばよいのかも分かりません。
不安のまま霧に包まれた1番ホール(396ヤード、パー4)のティーグランドに立ち、全集中でのティーショットを放つとようやく霧が少し晴れてきました。目を凝らしてコースを見渡すと豪快な打ち下ろしホールであることが分かり、霧の彼方に消えたボールは幸いにもフェアウェーセンターを捉えていました。
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2番ホール(514ヤード、パー5)に立つ頃には霧も大分晴れてきましたが、しかし右ドッグレックのブラインドホールでグリーンは見えません、しかもフェアウエーが左傾斜で気が抜けません。3番ホール以降広々としたフェアウエーが続くので気持ちよくプレーできますが、6番(381ヤード、パー4)はティーグランドの前が大きく傾斜して、下には大きな池があり、その先グリーンに向かって上りが続く難ホールです。
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そして9番(405ヤード、パー4)長めのミドルホールは高台にあるティーグランドから存在感のあるクラブハウスに向かって豪快に打ち下ろすシグニチャーホールです。ティーショットは思い切り打ちたいところですが、フェアウエー手前まで林が続くのでプレッシャーを感じます。その林を越えた第二打地点からグリーンに向けてはまた上りが続くのでクラブ選択が重要です。
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後半の9ホールは左右に大きな杉や檜が密集して圧迫感があり、フェアウエーが狭く感じられます。
中でも難ホールは14番(569ヤード、パー5)、全体に左傾斜がきついロングホールで、距離がある上にOBも出やすいので要注意でしょう。しかし、無事グリーンに上ると遥か別府湾や国東半島、豊後水道が望めるコース一の絶景が待っています。
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最終18番(353ヤード、パー4)は再びクラブハウスに向かって気持ちよく打ち下ろすホールで、コースの中央に立つ印象的な木の上を越えれば花道も広く、好スコアで気持ちよく上がれる期待が沸きます。
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コース全体に自然の地形をそのまま活かした傾斜がありますが、フェアウエーは比較的広くバンカーなどハザードは少ないので思い切りクラブを振る事が出来ます。またコンディションの良い日はフェアウエーにカートの乗り入れができるそうです。グリーンは大き目のベント1グリーンで、傾斜は大きくないものの高台にあるコースは風の影響が大きいのか芝目はきつめです。
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宿は立ち上る白い湯けむりと別府湾の大パノラマを一望できる山の頂に2019年オープンした五つ星ホテル「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」にしました。
コンテンポラリー&ラグジュアリーをコンセプトにスタイリッシュに洗練された最新の宿でも、熊八さんの「おもてなし精神」が今日も息づいている事を感じました。
オープンから90年以上が経ってもなお当時の残影も残る伝統あるコースでのプレーの後は、熊八さんの偉業を思い起こしながら絶景露天風呂で疲れを癒しては如何でしょうか。
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別府ゴルフ倶楽部
住所 | 大分県杵築市山香町久木野尾1753-4 |
電話番号 | 0977-44-6002 |
ウェブサイト | https://www.pacificgolf.co.jp/beppu/ |