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最近は中国の台頭などにより日本を取り巻く安全保障環境が大きな転機を迎えていますが、その安全保障の柱となる現在の「日米安全保障条約」が締結されたのは1960年1月で、昨年は60周年を迎えました。当時の岸信介内閣はこの条約締結(改定)を最大の政策目標としていましたが、1957年6月初めて訪米してアイゼンハワー大統領と会談した際に二人は真っ先ゴルフ場に出向き、プレー後は一緒にシャワーを浴びるなどして信頼関係を深め、無事条約締結に繋げたと言われています。因みに岸はその日のティーショットを「人生で最も緊張して放った一打は、生涯最高のショットだった」と回顧しています。
ドワイト・D・アイゼンハワーは第二次大戦で欧州戦線で連合軍を勝利に導いた英雄で、陸軍元帥から大統領になってからも米ソ冷戦期のアメリカの舵取りを担い国民からの評価も高いです。また歴史上もっともゴルフ好きの大統領としても有名で、任期中ですら年間100ラウンドしたと言われてゴルフ人気の拡大にも寄与、2009年には特別功労者として「ゴルフ殿堂」入りしています。また心臓に持病のあった大統領には主治医からの提案でグリーンに乗ったら2パットでホールアウトとする「アイク(大統領の愛称)・ルール」があって、晩年までゴルフを楽しんだと言う逸話もありました。
因みに同じ1957年には霞が関カンツリークラブでカナダカップ(後のワールドカップ)が開催され、中村寅吉選手が優勝して日本に第一次ゴルフブームが到来しています。
一方、岸首相の孫である安倍元首相は、アイゼンハワー大統領に次ぐゴルフ好きと言われるトランプ大統領とゴルフを通じて親密な首脳関係を築き、二人揃って日米安保条約締結60周年を祝って「同盟を更に深化・強化する」との声明を発表したのも、歴史的偶然とも言えるかも知れませんね。
そのアイゼンハワー大統領と岸首相が友情を培った舞台はワシントン郊外メリーランド州セベスタにある1922年開設された名門「バーニングツリークラブ」です。このクラブの会員は非公開ですが歴代大統領、政府や軍の高官、主要国会議員、外交官などに限定され、しかも男性専用のプラベートクラブです。尚、クラブ名Burning Treeはコース内の巨大な樫の木が秋になると燃えるように紅葉することが由来だそうです。
この限られたメンバーしかプレーできず「大統領のゴルフ場」との異名を持つ伝説のゴルフクラブを模して造られたと言われるのが神奈川県茅ケ崎にある「スリーハンドレッドクラブ」(起工時の名称は「茅ヶ崎ゴルフ場」)です。クラブの名前が示す通り会員数はわずか300名とし、会員資格は50歳以上の一部上場大手企業の社長・会長、政治家は首相か外相、大使・外交官など限られるエクスクルーシブな名門クラブで、まさにバーニングツリーを想起させるものです。今の時代にクラブのホームページすらない閉鎖性の高いメンバーシップクラブで、ガイドブックや有名コースランキング等に載ることもまずありません。
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開場は1962年、造ったのは東急グループ二代目総帥で中興の祖と言われ、またハンディキャップ2で「東大ゴルフ部卒」と自称するほどゴルフ好きだった五島昇です。五島は中曽根元首相とは40年来の友人であり、首相就任後はブレーンとして支えた関係もあってこのクラブの会長も務めました。クラブハウスのハンディキャップボードには今も中曽根元首相の名前が残っています。
五島は「人と人とを結びつけるのにゴルフほど健康なものはない」を信条とし、財界トップのサロン的なゴルフクラブとしてスリーハンドレッドクラブを作ったと言われます。クラブハウスの食堂には五島が仕留めた巨大なヘラ鹿の頭が飾られていますが、その下にはクラブを訪れるメンバーに語り掛けるように五島の遺影が置かれています。
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コースのアウトラインも五島自身が描き、詳細な設計は名匠井上誠一の流れを汲み多くの東急系のコースを造った宮澤長平です。コースのある茅ヶ崎は温暖な気候で都心からの便も良く、忙しいメンバーにとっては一年を通して手軽に快適なプレーが楽しめるコースとして評価が高いでしょう。
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コースは18ホール、6,875ヤード、パー72で、当然のことながらメンテナンスは素晴らしく、東急グループの造園デザイナーにより造園され121種類もの樹木であふれた美しいコースです。英国風の可愛いユニホームのキャディは教育が行き届き、従業員の方々のホスピタリティーも最高レベルなのは言うまでもありません。
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しかし、造成時に動かした土量はわずかであったと言われるように丘陵地の地形をそのまま活かしているのでアップダウンも多いコースです。またフェアウェーは松などの大木で完全にセパレートされた上に、景観のため剪定しない枝も多いためか狭く感じられ、距離もきちんとあって決して簡単なコースではありません。
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中でも名物ホールは9番ホール(570ヤード、パー5)です。もともとの地形をそのまま残しているのでグリーンまで長い急坂を登る事になり、コース最大の戦略ホールとなっています。ガードバンカーもプレーヤーの身長より遥かに深く、中曽根元首相をして「最後ボールを投げるしかない」と言わしめたそうですが、五島はこのホールを大変気に入っていたようで、「永久に改造しないように」との遺言を残したそうです。
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その他のホールを見ていきましょう。
1番ホール(380ヤード、パー4)真っすぐなミドルホールですが、早速両サイドに茂る木々でフェアウェーが狭く感じられます。二打目以降はグリーンまで右サイドにバンカーが続きますが、左サイドは壁のような斜面なのでこちらサイドから攻めたいです。
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2番ホール(405ヤード、パー4)距離のあるミドルホールで、ティーグランド両側の木々がせり出してプレーヤーを威圧しています。フェアウェー右にクロスバンカーがあり、その先は更にフェアウェーが狭くなっている難しいホールです。
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3番ホール(160ヤード、パー3)美しいショートホールですが、右側に池があり、左側には高い木々があるのでティーショットは慎重にセンターを狙う必要があります。
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4番ホール(480ヤード、パー5)比較的短いロングホールですが、ティーグランドから見たフェアウェーが狭く上り傾斜が続く難ホールです。
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またキャディさんが傾斜の先にいる組を確認できるようティーグランドの一番後ろに大きな鏡があるので有名なホールです。ティーグランドに上がるとキャディさんがまずコースに背を向けて立つので、理由を知らないと驚きます!
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5番ホール(350ヤード、パー4)真っ直ぐなミドルホールで比較的距離も短めなのでパーが狙えますが、フェアウェーのセンターやや左に大きな立ち木があり注意が必要です。
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6番ホール(375ヤード、パー4)右に大きくドッグレックしたミドルホールで、ティーショット落下点付近の左右に大きなガードバンカーがあり、これを避けてしっかり飛ばさないと二打目でグリーンが狙えません。
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7番ホール(335ヤード、パー4)次は左にドッグレックした比較的短めのミドルホールですが、グリーン周りには大小幾つものガードバンカーと木々で花道を狭くし、2オンは容易ではありません。
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8番ホール(180ヤード、パー3)距離のあるショートホールですが、真っ直ぐで障害物も少なくティーショットのクラブ選択を間違わずにしっかり打てれば難しくないホールです。
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9番ホール(540ヤード、パー5)五島昇が決して改造しないようにと遺言を残したと言われる名物ロングホールです。左に緩やかにドッグレックしながら急な傾斜を登って行くので、中々グリーンまで辿り着けない印象です。
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しかもガードバンカーに捕まると身長より遥か高いバンカーショットを打たなければならず、パーを取るのが最も難しいホールです。
しかし、ホールアウトしたあとに振返ると美しい景色が広がり、スコアを忘れて清々しい気分になります。
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10番ホール(415ヤード、パー4)アウトのスタートは豪快な打ち下ろしホールですが、距離は長く、グリーンは砲台で3オン狙いの難しいミドルです。前の9番と共に地形をそのまま活かした造りから五島昇が改造を禁じたと言われる名物ホールで、この二つがスリーハンドレッドのアーメンコーナーとも呼ばれているそうです。
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11番ホール(175ヤード、パー3)池越えで距離のあるショートホールです。ティーショットはプレッシャーを感じますが、グリーンとの高低差は殆どなく広々しているので、池を気にせず思い切りのよいティーショットが打てればパーも難しくありません。
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12番ホール(375ヤード、パー4)真っ直ぐなミドルホールですが、ティーグランドの前には左右にある大きな木がフェアウェーを狭め、先には大きなガードバンカーが3つ待ち構えているので正確なティーショットが必要です。
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13番ホール(495ヤード、パー5)比較的短く真っすぐなロングホールですが、フェアウェーの真ん中に行く手を遮るように茂った木が立っているので、これを上手く避ける高さと距離のあるティーショットが必要です。
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14番ホール(385ヤード、パー4)木々の生い茂った狭い谷間を打ち下ろす感じのミドルホールで、二打目からも左へドッグレックした狭いフェアウェーがグリーンまで続く難しいホールです。
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15番ホール(305ヤード、パー4)距離の短いミドルホールですが、ティーグランド前には左右から大きな枝が張り出してフェアウェーを狭め、更にティーショット落下地点のフェアウェーがS字を描き、その付近にはガードバンカーが幾つも並んでいます。これらを上手く避けティーショットを打つ事ができれば好スコアが出るホールです。
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16番ホール(150ヤード、パー3)広々しているように見えるショートホールですが、フェアウェーの左右には高い木立が門のように立ちティーショットのコースを狭めています。更に4つのガードバンカーがしっかりガードしているので、高い球で止まるティーショットを打つ必要があります。
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17番ホール(505ヤード、パー5)比較的狭いフェアウェーがS字を描き、3打目でグリーンを狙うのが難しく、最後まで気が抜けないロングホールです。
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18番ホール(330ヤード、パー4)比較的広いフェアウェーの真ん中に見える高圧線の鉄塔を目印に豪快にティーショットが打てるホールです。やや右ドッグレックなので、フェアウェー右手のガードバンカーを避け左側からグリーンを狙ってパーを取り気持ち良く上がりたいですね。
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プレー後は上品でこじんまりしたクラブハウスからゆったりした気分で富士山を眺め、名門プラベートクラブの良さを噛みしめながら寛ぎたいものです。
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ところでクラブハウスの玄関に立つ柱には論語の有名な一説が刻まれていました。このクラブの精神を表している言葉なのでしょう。
「有朋自遠方来不亦楽乎」「不許冠職入山門」。遠方より友人が来てくれのは嬉しいものだ。身分や地位、職業を意識してここに入ってはならない」と。
けっして簡単にプレーできるコースではありませんが、ゴルフ好きならチャンスを見つけて一度はチャレンジする価値があると思います。
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スリーハンドレッドクラブ
住所 | 神奈川県茅ヶ崎市甘沼441 |
電話番号 | 0467-53-0300 |