1923年は日本の「ウィスキー元年」と言われています。「日本のウィスキーの父」と呼ばれる竹鶴政孝が日本初の本格スコッチ・ウィスキー製造のため寿屋山崎工場(現サントリー山崎蒸留所)初代工場長として就任した年です。
ジャパニーズウィスキー生誕100周年にあたる2023年7月、長野県小諸市に誕生したのが小諸蒸留所。実はここ、イギリスの大手専門誌に「世界で最も訪れたい蒸留所3選」のひとつに選ばれ、世界中のウィスキー関係者が集う「World Whisky Forum (WWF)」の開催地としてアジアで初めて選出されるなど開業して間もないにも関わらず世界中から注目を集めています。今回は大注目の小諸蒸留所に行ってきました!
小諸蒸留所のなりたち
小諸蒸留所を運営する軽井沢蒸留酒製造株式会社の創業者・社長の島岡高志氏は元シティバンクの凄腕トレーダーという異色の経歴を持ちます。元々ウィスキーに魅了されており、自身の蒸留所を持つことを夢見ていた島岡氏は旧メルシャンの軽井沢蒸留所の名声をもう一度という想いで軽井沢で蒸留所を復活させることを検討していましたが、軽井沢では理想の土地を見つけられませんでした。しかし、近隣の小諸市で理想の土地に出会い、また不思議なくらいに良縁に恵まれます。経験も資金も不足していたにもかかわらず、島岡氏の想いに共感したフォーサイス社の社長が素晴らしい造り手を紹介してくれたのです。それが共同創業者・副社長で小諸蒸留所のマスターブレンダーのイアン・チャン氏でした。
イアン・チャン氏は業界で知らない人はいない有名人です。2010年代に世界的な賞を受賞し、アジアンウィスキーの新境地を開拓した台湾の「カバラン蒸留所」のマスターブレンダーを務めた人物で、2016年から2年連続でロンドンの品評会「IWSC」のウィスキープロデューサー・オブ・ザ・イヤーに輝いています。
チャン氏とのオンラインミーティングの機会を得た島岡氏は小諸の水の成分表、気温の年間データ、現場の写真、資金計画等できる限りの情報を揃えました。3時間に及んだミーティングの最後にチャン氏は「I’m in!」と言い、一緒に理想とする蒸留所作りを約束したのでした。
チャン氏が未知のベンチャーに参画するとアナウンスされたのは2020年のこと。業界は騒然となり、小諸蒸留所は建設される前から注目の蒸留所となったのです。
島岡氏とチャン氏のビジョンが一致したのはもちろん、小諸の立地や環境もチャン氏が参加する決め手となりました。
亜熱帯気候の台湾と異なり、小諸は海抜910mの地にある冷涼な気候です。‟スコッチウィスキーの生産地であるスぺイスサイドに似ていて高品質なウィスキー造りにチャレンジできる”とチャン氏は思ったのだそうです。
またこの地は浅間山麓の豊かな自然環境に包まれています。浅間山の雪解け水を源とするこの地の水はミネラルと微量元素を含んだ硬水は酵母にとって非常に有益なもの。硬度もチャン氏が理想とする範囲のものでした。
さらに、小諸蒸留所は軽井沢駅から車で約30分、佐久平駅から約20分と2つの新幹線駅からのアクセスが良い場所にあります。観光客にも訪れてもらえる蒸留所を作りたいという思いに合致しました。
島岡氏がウィスキーの蒸留所を建設しようと夢を抱いてから約10年。2023年6月18日の竣工式には、長野県知事や小諸市長、軽井沢町長をはじめ、イギリス、台湾、フランスなどの大使館関係者など大勢の方々が駆け付けました。そして2023年7月23日に晴れてグランドオープンを迎えたのです。
ウィスキーアカデミー
小諸蒸留所ではウィスキーの魅力を広める活動の一環として体験型コースを用意しています。コースの内容はウィスキーをこれから始めてみたい方(初心者)向けから、知識をより一層深めたい方(上級者)向けまで幅広く、内容はIWSC審査員やテイスティングのバイブル書「Whisky – A Tasting Course -」を執筆するエディー・ラドロー氏監修によるもの。
今回は初心者向けの「Tasting 101 基礎を知る」コースに参加させていただきました。このコースではウィスキーとは何か、どういう原材料で出来ているのか、基本的な製法などウィスキーの基本から、原材料や製造工程がウィスキーの風味にどのように影響しているのかをフレーバーチャート、カラーチャートを活用しながらテイスティングの仕方も学べるコースです。
ウィスキー超初心者かつウィスキーに苦手意識を持っていた私でも興味深く、そして楽しく参加できるコースでした。風味分析のために準備されたウィスキーは3種類で、どれも同じ年数熟成させてたものだったのですが、その香りや味がそれぞれ異なる理由なども知れて、これからもっとウィスキーについて学びたい意欲を掻き立てられました。ジャパニーズウィスキーと名乗るには最低でも3年は樽で熟成させる必要があるとのことで、今回は小諸蒸留所で造られたウィスキーではなく他社のものでした。しかし、それもまた数年後「KOMORO」でのウィスキーアカデミーを受講しようという意欲につながります。
お酒が飲めない方でも受講はもちろん可能で、その場合は地元で採れたリンゴを使用したジュースのテイスティングになるのだとか。
製造ツアー
小諸蒸留所では約1時間おきに製造エリア内のツアーを開催しています(※12歳未満参加不可)。ウィスキーアカデミーに製造ツアーも含まれているほか、「KOMORO Experience」プラン(ウェルカムカクテル&製造ツアー)でも参加可能です。
製造中の匂いを感じたり、発酵している過程を見たり、ポットスチルを間近で見られたりして‟あぁ、ここから日本を代表するウィスキーが生まれていくのか…!”という興奮のような心のざわめきを感じました。
小諸蒸留所のポットスチルはイギリスの蒸留器メーカー・フォーサイス社の銅製のもの。銅は不純物を取り除く性質があり、より柔らかく、豊かな味わいを生み出すのに役立つのだそうです。
製造エリアの見学後は熟成庫を見せてもらいました。イアン・チャン氏の師匠の名にちなんで「ジム・スワン・ハウス」と名付けられたドーム型の熟成庫は小諸の自然環境を最大限活かすことができる熟成装置そのもの。バーボン樽とシェリー樽を中心に世界中から届いた選りすぐりの樽が並び時を刻んでいます。
ウィスキーは商品として世に出るまで多くの時間を樽の中で過ごしますが、その間に樽の中の原酒は少しずつ減っていきます。このように熟成中に減った原酒のことを「天使がこっそり飲んでいるに違いない」と「エンジェルズシェア(天使の分け前)」と呼ぶようになりました。それを表現してこちらの貯蔵庫には天井に天使の輪を現わした照明が使用されています。遊び心があり可愛らしい、私のお気に入りポイントです。
BAR & SHOP
ビジターセンター内にはポットスチルを眺めながらオリジナルカクテルや小諸蒸留所の原酒(ニューメイク)を楽しめるバーや、選りすぐりのウィスキー関連アイテムや小諸蒸留所オリジナルアイテムを販売するショップも併設されています。
バーでは季節に合わせた期間限定のフードメニューや、ウィスキーに合うおつまみなど多種多様なメニューがあります。私は「KOMOROバーガー」と「季節のジェラート」を「りんごのノンアルコールカクテル」をセットでいただきました。ボリュームは小ぶりですが、どれも美味しかったですよ。
今回は「至高のジャパニーズウィスキーがここから誕生する」と信じさせてくれる小諸蒸留所を紹介いたしました。
あなたもぜひ小諸蒸留所に足を運んでみてはいかがでしょう?
小諸蒸留所
住所 | 長野県小諸市甲4630-1 |
電話番号 | 0267-48-6086 |
営業時間 | 10:00-19:00 (最終入場18:00 Bar L.O.18:30) |
休館日 | 公式ウェブサイトをご確認ください |
ウェブサイト | https://komorodistillery.com/ |