日本でゴルフ場設計の名匠と言えばまず井上誠一氏の名前が上がるでしょう。井上誠一設計のコースの中でもクラッシックな趣きに溢れた初期のものは評価が高く、1953年開場のここ大洗ゴルフ倶楽部も最高傑作の一つと言われています。
彼自身もこの大洗を「シーサイドリンクスと言う日本では珍しい立地条件に恵まれ、また他に類例がない黒松林に富み極めて個性的で、これこそ得難い日本ゴルフコースの宝物と言える」と評しています。
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ご存じの通りゴルフはスコットランドのシーサイドリンクスで生まれ、今日でも全英オープンはセントアンドリュースやカーヌスティなど全てリンクスコースで開催されています。リンクスとは海岸と内陸の耕作地をつなぐ(リンクする)不毛の砂丘地と言う意味ですが、これまで日本ではそこにゴルフ場が作られるケースは殆どありませんでした。
しかし、太平洋に面した大洗海岸に沿って造られたこのコースは自然の砂丘地を活かして作られました。その際に砂地を残して自然のラフとしたので、このコースはフェアウェーバンカーが殆どないのも特徴でしょう。
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また、コース内には江戸時代からの防風防砂林である25千本の黒松があり、中には樹齢100年を超える巨松も数千本あって、それらが独特の美しい景観を醸しだしています。
井上の人工造形物を極力排除する設計美学はこの松林を自然の障害物としており、それは大洗名物の「空中のハザード」と称されています。
しかし、密集の高い松の巨木群は長年に亘る海からの強風で芸術作品のように横斜めに茂り、両サイドからウェアウエー上に張り出して空間を狭めボールの行く手を遮るだけでなく、時にガードバンカーの上さえ覆って脱出を阻みます。
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それは早くもスタートホールで実感するでしょう。
1番ホール440ヤードは真っすぐで平坦なミドルホールでティーショットはさほどプレッシャーを感じません。しかし、グリーンに近づくほどフェアウェーが絞られるだけでなく、左右から張り出す松の枝がアプローチショットの弾道を限定し、例え僅かなミスショットでも空中のハザードの洗礼を受ける事になります。
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7番の距離のあるロングホールはS字にうねり、各ショットの落とし場所が限られ、スコアメイクには飛距離は勿論のことフェードとドロー、高低の弾道と様々な球筋を操る技が要求される難ホールで正に井上誠一真骨頂のホールと言えます。
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そしては17番ホールの418ヤードの長いパー4です。左右の松を避けながらフェアウェーを捉え、砲台グリーン左手前の谷を巧みに避けてグリーンを狙うには十分な飛距離と正確さが要求される難関で、トーナメントの勝敗を決した事も少なくありません。
またシーサイドリンクス特有の海風が吹けばより一層難しさが増し、特に太平洋に向かって打ちおろす印象的な16番は218ヤードと長いショートホールで、向かい風の時はドライバーを持つ必要すらあります。
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グリーンは当初井上の主張とコースの意見が合わず不思議な折衷案としてベントと高麗芝のコンビネーショングリーンでしたが、その後の改修でベント芝ワングリーンとなった為、大きくうねる巨大なグリーンを攻略するには微妙なパッティングセンスが要求されます。
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日本中を興奮させた今年のマスターズチャンピオン松山英樹が優勝した2013年のダイヤモンドカップなど多くのメジャートーナメントが開催されましたが、最終ホールで松林に打ち込んだ田中秀道が僅か50㎝の木の隙間を6番アイアンで打ち抜くギャンブルショットでグリーンを捉え劇的な優勝を飾った1998年の日本オープンは最も印象的でしょう。(松林の中にショット地点の記念碑ありますが、とてもグリーンを狙える場所とは思えません)
長打力だけでは征服できないこの難易度の高さで多くのドラマを生んだ事もコースの名声を高めたと言えるでしょう。
フルバック7,205ヤード(レギュラー6,710Y)でコースレート74.4が示す通り国内屈指のモンスターコースでありラウンドの疲労感は半端ではないですが、ここでしか味わえないゴルフの醍醐味を楽しめるコースと言えます。
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クラブハウスは周囲の松林に溶け込むような風格のある瓦屋根の和風建築で、歴史と気品を漂わせています。
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そのクラブハウスへ続く松林の入り口にあるのが1872年創業の老舗料亭旅館「大洗山口楼」です。茨城産の新鮮で良質な素材を目の前で焼いてもらえますが、季節が良ければ潮騒や磯の香りが心地よい松林の庭でも食事を楽しむことができお薦めです。因みに井上誠一はこの旅館に寝泊りしてコースの設計をしていたそうです。
是非あなたもハイレベルのシーサイドコースでプレーを楽しんだ後は、ここの新鮮な料理を味わってみては如何でしょうか。
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因みにコースのパンフレットには「太平洋を一望する自然の地形を欲しいままに、黒松の群生と共存するシーサイドコース。潮騒を身近に感じながら、ホールごとの巧みな変化にチャレンジ精神をかきたてられて、訪れるたびに新しい局面を展開する多彩さがゴルファーを魅了してやまない」、「数々の神話を作り、名実ともに名門という名にふさわしい歴史を重ねてきた大洗で、ゴルフの醍醐味を極めた者だけに与えられる崇高なロマティシズムを是非あなた自身で体感して頂きたい」とあります。
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大洗ゴルフ倶楽部
住所 | 茨城県東茨城郡大洗町磯浜町8231-1 |
電話番号 | 029-266-1234 |
ウェブサイト | http://www.oarai-golf-club.co.jp/ |