1936年日本で初めての本格的リゾートホテルとして開業した「川奈ホテル」は昨年末に開業85周年を迎えました。当時、政府の要請により日本で初めて国際的に通用するゴルフコースを併設した英国風のリゾートホテルとして開業、海と緑に囲まれた優美なホテルは国内外の多くの著名人に愛されると共に、人々の憧れのホテルとなりました。
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またホテルに併設された二つのゴルフコース「富士コース」と「大島コース」はいずれも自然の地形を巧みに活かして息をのむほどに美しく、また戦略性も高いためゴルフ愛好家なら一度はプレーしてみたい憧れのコースです。
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「川奈ホテル」を創設したのは日本古来の伝統美を備えた「ホテルオークラ」を設立するなどホテル業界に大きな足跡を残した、大倉財閥の二代目大倉喜七郎男爵です。
彼は自然豊かで温暖な川奈の地を静養で訪れた際に、英国で触れた貴族の豊かな田園生活を日本でも再現したいと言う夢を描き、牧場用地として広大な土地を購入しました。しかし、そこは牛が蹄を痛める溶岩台地で牧場には全く向かない土地だったのです。
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牧場を諦めた喜七郎はその風光明媚で変化に富んだ土地を活かしゴルフ場を建設する事にしました。ゴルフ界の大御所大谷光明設計で重機もない時代に人力で溶岩台地の上に大量の客土を行って芝を張りつけ、1928年(昭和3年)に18ホールパー68の短い「大島コース」が東海地方最古のゴルフ場としてオープン、川奈の歴史はここから始まりました。
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設計した大谷光明は西本願寺門主の息子で英国留学時代にゴルフを始め、帰国後には日本ゴルフ協会の設立などゴルフの普及に尽力し、川奈の他に東京ゴルフ俱楽部等の設計も手掛け日本のゴルフの祖とも呼ばれています。
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大倉は引き続き隣接地に当時人気の高かった赤星六郎の設計で「富士コース」の建設を始めます。丁度その頃、ゴルフ場設計の巨匠である英国人C.Hアリソンが1930年東京ゴルフ倶楽部と広野ゴルフ倶楽部の設計の為に来日しました。
アリソンは大谷光明から赤星が描いていた富士コースの図面の修正を依頼され、関西へ赴く途中で川奈に立ち寄りその余りの美しさに魅了されました。
眼下に広がる相模湾の波頭の彼方に伊豆大島、三浦半島や房総半島、そして秀峰富士山を一望する雄大な景観はアリソンの設計思想を実現する場として相応しい舞台だったのです。
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「富士コース」はアリソンの図面に基づき1936年(昭和11年)に完成しました。
全英オープン開催のリンクスコースや「神のみが創りえた」と称される米国随一のペブルビーチと並んで世界に名を馳せ、米国のゴルフマガジン「世界のゴルフ場100選」始め、世界のベストコースランキングに選ばれ続ける日本を代表する名コースです。
プロトーナメントの舞台としても有名で1981年から男子のフジサンケイクラシックを24回に亘り開催し、2005年からは人気の女子プロ「フジサンケイレディースクラッシック」の舞台となって数々の名勝負やドラマを生み続けています。
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この「富士コース」は既にこのブログ第三回目で紹介していますので、今回は先輩ともいえる「大島コース」を紹介します。
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「大島コース」は開場から既に94年もの歳月が経ちクラシックで手作り感満載のコースですが、「富士コース」同様に海風や波の音を感じるシーサイドリゾート気分を味わえます。パー70と距離は短いですがフェアウェーは狭いうえアップダウンもきつく、谷越えや海岸線ギリギリの崖っぷちに沿ったホールもあってけっして簡単なコースではありません。
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しかし、「富士コース」がキャディ付の歩行プレーなので体力に自信のない人には辛いですが、「大島コース」はセルフプレーでコース乗り入れ可のナビ付電動カートを使用し18ホールスルーで廻れます。しかも、「富士コース」が宿泊者専用であるのに対し、日帰りプレーも可能なので誰でも気楽に川奈を楽しむ事ができます。
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そして「大島コース」にはお茶目な名物があります。それは各ホールに付けられたユニークなニックネームです。
開業当時、スコットランドのゴルフコースには各ホールにニックネームが付いているところが多く、それに倣って「大島コース」にも各ホールに名前が付けられました。
命名は理屈や理論ではなく、印象やフィーリングで付けられたようで、例えば海沿いの3番は「海岸通り」、左右に松林が続く9番は「東海道」、広々と真っすぐな17番は「シャンゼリゼ」と分かりやすく素敵な命名です。
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一方、谷越えで左側は全て海でOBでティーショットをミスするとボールとお別れと言う名物ホールの4番は「Good-Bye」、深い谷越えと揺れる吊り橋を渡って小さなグリーンまで行く6番は誰かに助けを求めたくなる「SOS」、ティーグランドの前に谷のある16番は「地獄谷」といったコースの恐ろしさを感じる名前もあります。
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中には8番の「落人回り」とかカエサルの故事からとった13番の「VENI VIDI VICI」とよく分からないものまでありますが、最終ホール18番は「Wife&Drink」(ホールアウトをお待ちかねの妻と一杯飲もう)と言った洒落たネーミングとなっています。
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また「大島コース」は18ホールスループレーですが10番ホール手前には可愛い茶店があります。そこで味わえる「磯ラーメン」はとれたての海藻がたっぷりで、まさに磯の香りが楽しめる大島名物で、特に今頃の季節のプレーでは温もりが嬉しい一品です。
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最後にもう一度川奈ホテルについてご紹介させて頂きます。
大倉喜七朗は留学中に訪れたスコットランドのリゾートホテル・グレンイーグルスホテルで貴族たちがゴルフや乗馬、テニス、プールなどを楽しむ姿に感銘を受け、帰国後ここ川奈に英国風本格的リゾートホテルを建設しました。
オープンしたのは1936年(昭和11年)で、この年は二二六事件が起き軍靴の足音が響く騒然とした時代でした。太平洋戦争中は米英大使館員の抑留先や海軍病院に、戦後は進駐軍に接収されるなど歴史の荒波に翻弄されます。接収解除後にも平穏ではなく、大倉財閥の中核であった大倉商事の倒産により担保として差し押さえられましたが、西武グループが再建を支援し現在はプリンスホテルグループの一つとなっています。
詳しくは以前ご紹介した記事をご覧ください。
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いま川奈ホテル開業85周年を記念した特別企画として850万円でホテル全室を貸し切りに出来るプランなどが用意されました。インペリアルスウィートルームを含む1泊で東京からのヘリコプターでの送迎で、「富士コース」「大島コース」でそれぞれ1ラウンドができ、高級フレンチなどの食事や飲み物は何でも好きなだけオーダーが可能と言う夢のような企画です。このプランは2~8名で申込が可能です。
名だたる著名人に続き歴史ある川奈をヘリコプターで訪れ、この格式高い名門ホテルを全館借り切ってゴルフを楽しんだ後に本格フランス料理や美酒を存分に味わえば、まさに究極に贅沢な非日常を楽しむことが出来ますね。
因みに85周年の決めセリフは「バロンの夢に歩みを紡ぐ」でした。
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川奈ホテルゴルフコース 大島コース
住所 | 静岡県伊東市川奈1459 |
電話番号 | 0557-45-1111 |
ウェブサイト | https://www.princehotels.co.jp/golf/kawana/oshima/ |