クラブハウスやスタートホールからは勿論、その名の通りほぼすべてのホールから霊峰富士を眺める事が出来る美しいコースです。しかもコースの位置は富士の麓ではなく、適度の距離と高さがあるので頂上から山裾まで富士山全体を眺めることができるのが特徴です。
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今年開場65周年を迎え、多くのゴルフ場のある御殿場市周辺で戦後一番始めに出来た歴史あるコースです。
戦後の御殿場市富士山周辺は駐留する連合国軍の訓練施設が多く設けられましたが、当時の御殿場市長はその撤退後の地元振興・企業誘致やその為のリクリエーション施設としてゴルフ場建設を計画します。そこで時の石橋湛山総理大臣に発起人を依頼し、他にも後の総理大臣池田勇人、副総理石井光次郎や帝人社長大屋晋三、小田急電鉄初代社長安藤楢六、野村證券社長瀬川美能留、東京ガス社長安藤浩等の政財界要人が発起人に名を連ねています。
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また名誉会員として高松宮ご夫妻や常陸宮ご夫妻のお名前もあります。
1956年に(株)富士カントリー俱楽部を設立してゴルフ場建設が始まり、1958年8月に秩父宮妃殿下をお迎えして開場式が行われました。
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コースの設計はアメリカから帰国して本場のゴルフを日本に紹介した赤星四郎です。
赤星は1895年薩摩藩の実業家赤星弥之助の四男として東京神楽坂で生まれ、麻布中学卒業後からペンシルベニア州立大に進み、卒業後の1923年から米スタンダードオイルに勤め、在米中にゴルフやゴルフコースの設計理論を学びました。そして帰国後はアマチュア選手として1926年と28年の日本アマ選手権で二度優勝するなど活躍した人物です。
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また、実弟の赤星六郎もプリンストン大学留学中にゴルフを始め、1924年に日本人として初めてゴルフの聖地パインハーストでのトーナメントで優勝、帰国後の1927年に程ヶ谷ゴルフ倶楽部で開催された第一回日本オープンでプロ選手に大差を付け歴代唯一のアマ選手として優勝し、兄弟
揃って日本ゴルフ界の立役者となりました。
二人はゴルフコース設計家としても活躍し、兄の四郎はこの富士カントリークラブの他に名門の程ヶ谷ゴルフ倶楽部(1923年)、霞ヶ関カンツリー倶楽部東コース(1929年)、箱根カントリー倶楽部(1954年)、葉山国際カンツリー倶楽部(1963年)、芥屋ゴルフ倶楽部(1964年)などを設計しました。弟の六郎も相模カンツリー倶楽部、我孫子ゴルフ俱楽部を設計していますが惜しくも1944年に42歳で亡くなりました。
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実は赤星兄弟が設計家として活躍した背景には1930年に東京ゴルフ倶楽部霞ヶ関コースの設計の為に招聘された英国人ゴルフ場設計家C・H・アリソンとの出会いがありました。二人は米国での経験を活かしてアリソン来日時の通訳・案内役を務め、その際に現場で名設計家によるコース設計の神髄やノウハウを直接学んだことが、その後のコース設計家としての成功に深く関係していたようです。
しかし、アリソンの影響を受けた赤星四郎ですが、一方では日本人ならではの繊細な感性や戦略性などの設計思想が外国人設計家に負けていない事も自覚し、「ゴルフコースは設計者の人格の表現であり、夢の実現であるから、一つの芸術として完成されたものでなくてはならない。」と持論を述べています。
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また「コースがゴルファーひとりずつの人格と力量を試そうと待ち構えている。ホールの途中にあえてペナルティを設ける必要はなく、極力自然の姿を保つことがゴルフ本来の精神なのだ。」、更に「アンジュレーションこそゴルフの生命。もしコースが湖面のように平たん続きならゴルフは滅びていただろう。アンジュレーションを楽しむのがゴルフだ」と自然との共生をゴルフコース設計の重要なテーマにしています。
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尚、赤星四郎がこの富士カントリークラブの設計を引き受けた背景には設立発起人であった石橋湛山総理と縁戚関係だった事があると思われます。
またアマチュア選手を貫き通した赤星兄弟はスポーツマンシップ精神を重要視すると共に、ゴルフを通じた友情や信頼関係構築の大切さを説いていました。
コース内には松や杉の常緑樹、樫や檜など広葉樹の大木が多く茂り歴史と風格を感じます。
「自然との共生」、「あるがままを潔よし」をモットーに自然の地形を活かして手作りで造成された丘陵コースは左右の傾斜や高低差も大きく、また、フェアウェイの幅も狭いところが多く、木々の枝もハザードとなってティーショットの狙いどころが限られるなど高い戦略性が求められます。また平均約800㎡の大きなベント・ワングリーンの多くは砲台状で複雑なアンジュレーションと強い芝目もあって難易度の高いコースです。
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標高470mの箱根外輪山の頂きに建つ、2023年に国の登録有形文化財の指定された歴史と風格を感じる木造・平屋風のクラブハウスも印象的です。中でもレストランの一枚窓から額縁にはめた絵画のように富士山の絶景が望められるのは圧巻です。また建物の真ん中には冬場に薪を燃やす石造りの大きな暖炉があり、梁の丸太とマッチして山小屋風の雰囲気を醸し出しています。
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設計は1919年「帝国ホテル」建設の為にフランク・ロイド・ライトの助手として来日したチェコ(ボヘミア)出身の著名な設計家アントニン・レイモンド(Antonin Raymond)です。
その後、日本で設計事務所を構えると帝国ホテルの完成を見ず帰国した師匠のライトとは異なり、日本家屋と欧州生活様式の融合を図る斬新な作品を残しました。1964年には日本にモダニズム建築の思想を広めた功績で勲三等旭日中綬章を受章しています。
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彼の残した有名な作品としては地元原産日光杉の杉板と杉皮を割竹で押さえ市松調模様に配した独特の外観を持ち、国際避暑地日光中禅寺湖畔のシンボルとも言える「旧イタリア大使館日光別邸」(1928年)があります。その他には聖路加病院(1928年)、東京女子大礼拝堂(1938年)等を設計していますが、ゴルフ好きで東京ゴルフ俱楽部のメンバーでもあった彼はゴルフ場のクラブハウスの設計も行いました。
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その中には戦争の影響で建設から僅か8年で消えた東京ゴルフ倶楽部旧朝霞コースの白亜のクラブハウス(1932年)が有名ですが、ここ富士カントリーのクラブハウスは戦後再来日後に初めて手掛けたもので、現存する最古のクラブハウスと言われています。ロビーの壁には開業当時からの歴史を伝える興味深い写真が多数展示されています。
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コースの全長は6,771ヤード、パー72です。それでは富士山の絶景を楽しみながら廻る各ホールを見て行きましょう。
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1番ホール(398ヤード、パー4)スタートホールではティーイングエリアの真横に富士山の全景を眺めながら40m以上の高低差を真っすぐに打ち下ろして行きます。フェアウェイは三段に分かれているのでティーショットは平なところに置くのがポイントです。
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2番ホール(377ヤード、パー4)右にドックレックしながら緩やかに打ち上げるホールです。ティーイングエリアのすぐ前にクリークがあり、左右に松の木が並んでいるのでティーショットを打つ際にはプレッシャーを感じます。二打目地点は広々としており、グリーンに向かって下り傾斜となります。
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3番ホール(141ヤード、パー3)正面に見える富士山に向かって打ち下ろす印象的なパー3ホールです。しかし、美しいホールには牙があります。グリーンの手前は急傾斜で深くえぐれており、グリーンはガードバンカー囲まれ奥は直ぐにOBなので正確にグリーンを捉えないと大けがをします。
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4番ホール(470ヤード、パー5)比較的短いパー5ホールですが、ティーイングエリアの前方左右に高い木々が茂りOBもあるので、ティーショットを曲げる事は許されずプレッシャーを感じます。しかし、二打目以降は広々としているので伸び伸びプレーできますが、グリーン左にある二つの大きなガードバンカーには注意が必要です。
5番ホール(322ヤード、パー4)比較的短く真っすぐなパー4ですが、グリーンに近づくに連れてフェアウェイが絞られており、緩やかな上り坂になるのでパーを取るには正確な距離感とショットが求められます。
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6番ホール(415ヤード、パー4)今度は比較的長めのパー4ホールです。フェアウェイ後半からグリーンに向かって左ドックレックしているので、ティーショットが十分飛ばないと二打目でグリーンを狙うのは難しくパーが取り難いホールです。
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7番ホール(180ヤード、パー3)距離の長いパー3です。グリーンの手間には左右5本もの高い木が門のようにそびえ立ち、距離のあるディーショットでこの木の間を正確に通す必要があり、更にグリーンは高台となっているのでワンオンが難しいショートホールです。
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8番ホール(445ヤード、パー5)距離の短いパー5でバーディーが狙えるホールです。しかし、ティーイングエリアの目の前を道路が横切っており、ティーショットはその上を越えて行く必要があり、先には左右に高い木がフェアウェイを狭めるように立っているのでプレッシャーを感じます。二打目以降はフェアウェイも広く、富士山を眺めながら伸び伸びとショットを打てます。
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9番ホール(360ヤード、パー4)右に大きく曲がるパー4で、右側の山裾がねらい目です。
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10番ホール(320ヤード、パー4)後半もティーイングエリアから富士山の全景を眺めながらのスタートとなります。左に大きく曲がる打ち下ろしホールで距離も比較的短いので、ドローヒッターはティーショットをグリーン手前まで運ぶことが出来ます。但し、フェアウェイ右側は直ぐに崖となり、打ち上げのグリーン手間には大きなガードバンカーがあるので簡単ではありません。
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11番ホール(158ヤード、パー3)真っすぐ打ち下ろすパー3ホールでティーイングエリアの前にはクリークがあり、グリーンの周囲は3つの大きなバンカーがガードしているので正確なティーショットが必要です。
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12番ホール(333ヤード、パー4)緩やかに左に曲がるフェアウェイとグリーンの真ん中が約30mの小高い丘となっているホールです。グリーンの右側は急な斜面となっているのでアプローチショットは左側から狙いましょう。
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13番ホール(492ヤード、パー5)なんと50mの高低差を豪快に打ち下ろすパー5ホールで、広々とした二打目地点からは正面に富士山を望むことが出来る美しいホールです。グリーンは左の林の先の右手にあるのでフェアウェイの左側から狙う必要があります。
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14番ホール(357ヤード、パー4)ティーイングエリアの左右に大きな木々がそびえ立ちティーショットを打つ際はプレッシャーを感じますが、二打目付近のフェアウェイは広々しています。しかし、グリーンに近くなると再びフェアウェイは狭くなり、グリーン周りには4つの大きなガードバンカーがあり、奥にはOBもあるのでアプローチショットは慎重に打つ必要があります。
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15番ホール(343ヤード、パー4)ティーイングエリアの前に大きなクリークがありティーショットを打つ際にプレッシャーを感じるホールです。ここのフェアウェイも緩やかな左にカーブし、フェアウェイ右側には大きなクロスバンカーがあるので注意が必要です。
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16番ホール(161ヤード、パー3)フェアウェイの中央付近をクリークが横切るパー3ホールです。グリーン左手には大きな木がそびえ、右手には3つのガードバンカーがあるのでグリーンを捉える正確なティーショットが必要です。
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17番ホール(441ヤード、パー5)バーディーも狙える距離の短いパー5ホールです。ティーイングエリアの前にクリークが隠れているので注意が必要です。広々としてフラットな二打目地点から左に曲がり、緩やかな上り坂の上にあるグリーン正面に富士山が現れる印象的なホールです。このグリーンの周囲にはガードバンカーがありませんが、高低差が2m近い二段グリーンなのでパッティングが難しいです。
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18番ホール(410ヤード、パー4)最終ホールは比較的長いパー4ホールです。ティーイングエリアの前には大きな谷があり、ティーショットは打ち下ろしですが、二打目から右手奥のグリーンに向かってきつい打ち上げとなりパーを取るのが難しいホールです。
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富士カントリークラブの所在地は多くのゴルフ場がある御殿場周辺でも東名高速の出口から僅か2Kmと最も近いゴルフ場の一つであり、アクセスが良いのも特徴です。
富士山から適度に離れた箱根外輪山側にあるので、美しい富士山の全貌を見渡せる絶好の場所にあり、更に富士山麓に比べて気候が安定し夏は涼しく、冬も雪は殆ど降らず、富士山麓地域名物の霧の影響も殆ど無いそうです。
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霊峰富士山の絶景を存分に望みながら、コース設計とクラブハウス設計における二人の巨匠が造り上げた伝統ある高原のコースでのプレーを楽しんで下さい。
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富士カントリークラブ
住所 | 静岡県御殿場市東山 2472 |
電話番号 | 0550-82-1616 |
ウェブサイト | https://www.fujicountryclub.com/ |