【川崎】川崎国際生田緑地ゴルフ場 – 名匠井上誠一を堪能できる美しくもチャレンジングなパブリックコース

【川崎】川崎国際生田緑地ゴルフ場 – 名匠井上誠一を堪能できる美しくもチャレンジングなパブリックコース

音楽や絵画等が作者の没後にその芸術的評価が高まり、作品と共に名声が後世に長く語り継がれる事がよくあります。日本のゴルフ場設計の名匠として名高い井上誠一の残したコースは今日でも日本のゴルフ界の財産と言われるほど評価は高く、その意味では芸術作品と呼ぶに値するのではないでしょうか。

お茶の水駅前に建つ大きなビルの井上眼科は今年創立140周年を迎え、かつて夏目漱石も通ったと言われる日本で最も歴史ある名門眼科病院です。誠一はその創始者の長女と、養子でドイツ留学を経て同院の院長や宮中侍医を務めた父のあいだで東京赤坂に生まれました。

従い、誠一も父の後を継いで医師となる道を進む予定でしたが、旧制成蹊高校在学中に病を患い、その道を断念しました。

しかし、その病気治療のためにゴルフを始めたころ、療養中の伊豆川奈である人物に出会った事がその後の人生を大きく変えました。その人物とは東京ゴルフ倶楽部朝霞コース設計の為1930年に来日し、その後廣野ゴルフ倶楽部の設計の為関西に向かう途中で川奈ホテルゴルフにも立ち寄り、富士コースを設計した英国人の著名コース設計家C.Hアリソンです。当時22歳であった誠一は川奈でアリソンの仕事に触れた経験からゴルフコース設計家の道を志し、海外から多くの文献を取り寄せるなどして研究に励む事になりました。

当時47歳のアリソンは僅か3か月の滞在中に名門となる3コースの設計と4つの改造という驚くべき仕事を行い、その後は二度と日本の地を踏むことはありませんでした。しかし、その設計技術や思想は日本のコース設計家に受け継がれ、数々の名コースの誕生に貢献する事になります。

中でも井上誠一はその全てを受け継いだと言われ、厳格で妥協を許さない設計思想を貫いて「井上に外れ無し」と言われるほど数々の名コースを生み出します。彼の設計したコースは自然の景観や地形を巧みに活かし、個性的で戦略的なレイアウトを実現しながら上品さと自然と調和した日本的な曲線美を備え、今日でもプレーヤーを魅了し続けています。

井上誠一がその生涯で設計したコースの中で38コースが現存しますが、「霞ヶ関カンツリー俱楽部」や「大洗ゴルフ倶楽部」「札幌ゴルフ俱楽部」等その多くが人気ランキングの上位に名を連ねる名門コースであり、簡単にプレーできないコースも少なくありません。

その中で今回ご紹介する「川崎国際生田緑地ゴルフ場」は市営のパブリックコースであり、誰でもが井上誠一のコースでプレーを楽しむ事が可能です。しかも東京都内からの交通至便な多摩川を越えて直ぐのところに位置しています。

このコースは1952年会員制の「川崎国際ゴルフ俱楽部」としてオープンしました。

終戦後、「東京GC」「霞ヶ関CC」や「小金井CC」など東京近郊の多くのゴルフコースは占領軍に接収され、日本人がプレーできるコースが限られていました。そこで日本人が気軽にプレーできるコースが渇望される中、ゴルフ愛好家による神奈川県知事や川崎市長への働きかけにより川崎市が持つ多摩丘陵の緑地に新コースを開設する計画が動き出しました。しかし、戦後の占領政策の柱である農地改革の一環として「自作農創設特別措置法」が施行され未開墾地の小作農への開放政策があった為、緑地利用でGHQとの調整に手間取りオープンまで5年を要する事となりました。「国際」の名称は占領軍関係者等との国際的な友好促進の場となる事を意識して命名されたそうです。

設計は当時ゴルフ場建設で定評のあった安達建設の設計部に属していた井上誠一が担い、彼の戦後初めての作品となります。その後彼はコース設計家として独立し「大洗GC(1953年)」「鷹の台CC(1954年)」「日光CC(1955年)」「西宮CC(1955年)」など次々と名コースを生み、後世この時期は彼の傑作期とも呼ばれています。

難産の末1952年にようやく9ホールで開業、1954年には9ホールを増設して18ホールが完成し、都心から近い井上誠一設計の名コースとして人気を博し「登戸」の愛称で長らくゴルフ愛好家に親しまれました。

しかし、その後の高度成長に伴うコース周辺の住宅地開発や都内から郊外への大学進出などの環境変化で市有地利用について住民から様々な意見が出るようになります。果たせるかな長期に亘る住民訴訟と和解を経て1992年に川崎市に返還され、新たな名称で市民のためのパブリックコースに生まれ変わりました。現在コース運営は東急グループが受託しています。

このような数奇で複雑な歴史を持つコースですが、運営形態が会員制からパブリックに変わってもコースの本質に変わりはありません。重機を使わず多数の人力を動員して丘陵地の自然の地形をそのまま活かして造成されたコースは急な打ち上げ打ち下ろしが多く、狭いフェアウエーは常に傾斜とうねりがあります。

巧みに配置されたバンカーは深く、グリーンは全て小さな砲台という、井上誠一らしい美しくチャレンジングなコースです。距離は長くありませんが各ホールは個性的な変化に富んだレイアウトで、全てのショットに高い精度が要求され、コースに慣れないプレーヤーがスコアをまとめる事は容易ではありません。

では主なホールを見ていきましょう。

1番ホール(480ヤード、パー5)左に大きく曲がるロングホール、ティーショットは打ち下ろしで左右からせり出す山裾の間を打ち抜く必要があります。ショートカットを狙うと丘の向こうで池が待ち構えています。二打目地点からは上り坂が続き小さな砲台グリーンの上は全く見えないので大きめのクラブで打ってオーバーすると早い下りのパットが残ります。

3番ホール(280ヤード、パー4)は短いミドルホールですが、ティーグランドの左右には大きな木が茂り、フェアウエーは大きく左に傾きながら登り傾斜もきつく、二打目を平らなところから打つ事はできません。特に高麗グリーンは遥かに見上げる丘の頂上にあり、正確に距離を合わせて小さなグリーンに乗せる事は容易ではありません。

5番ホール(390ヤード、パー4)、ティーグランドから約200ヤード先が大きな谷になっています。ティーショットの飛距離が出ればボールは急傾斜の下まで落ちて、そこにはフェアウェーが続いています。第二打は急な上り坂の上にある小さなグリーンを狙う事になり、距離感が難しくショートするとグリーン手前の傾斜にある深いバンカーに捕まります。

8番ホール(490ヤード、パー5)、正面の洒落たマンション群に向かって豪快なティーショットを打て、150ヤード先からの急な下り傾斜に上手く乗れば300ヤードショットも夢ではありません。しかし、急斜面の途中でボールが止まると二打目は難しくなります。

前半最後9番ホール(175ヤード、パー3)は長めのショートホールでグリーンとの間は深い窪地となっています。距離が足りなくて崖下に落とすと急な打ち上げとなり、左右に広がる大きなガードバンカーもあるのでリカバリーショットは難しくショートホールながら大たたきのリスクがあり、前半の勝敗を左右することになります。

11番ホール(375ヤード、パー4)眺めのよい高台のティーグランドから気持ち良くショットを打てますが左右のOBには気を付ける必要があります。二打目以降は急な上り傾斜で距離感が難しく、大きめのクラブ選択が必要ですがピンを正確に捉えるのが難しいです。尚、後続の組からグリーン上が見えないので、必ずピンを抜いてパッティング中である事を知らせるローカルルールがあります。

12番ホール(420ヤード、パー4)は丘の頂上から打ち下ろす、自然の地形をそのまま活かした印象的なホールです。谷底に下りるような急坂の下にあるフェアウエーにはきついアンジュレーションがあり、右ドックレックで丘の向こうに隠れたグリーンを第二打で狙うのは極めて難しいホールです。

13番(165ヤード、パー3)またも急な打ち下ろしのショートホールで、遥か下にある小さな砲台グリーンを捉えるには距離感と正確なアイアンショットが要求されます。もしグリーンを外すと急傾斜の崖下に転げ落ち、難しいリカバリーショットが必要となります。

16番(150ヤード、パー3)もう一つのショートホールはティーグランド前に深い谷があり、その先が上り傾斜なので実際の距離より遠く見え正しいクラブ選択がカギになります。

17番ホール(485ヤード、パー5)このコースで唯一言える広々として真っすぐなホールで、思い切りティーショットを打てますが、ティーグランドの前と230ヤード付近左側に池があり、その先もグリーンまで小川が続いているのでロングドローヒッターは要注意です。グリーンはもちろん小さな砲台ですが、距離も短いので最もバーディーが取りやすいホールでもあります。

最終18番ホール(350ヤード、パー4)は丘の上のティーグランド正面に大きな池がある打ち下ろしホールです。フェアウエーは池の先で大きく左に曲がっているので、ティーショットは池越えで左の丘と木の上を越えるショットが必要です。グリーンは壁のような急傾斜の上にあり、その手前には大きなバンカーがあるので二打目は高い球が要求されます。またグリーンは奥から手前に傾斜がきつく、壁やバンカーを警戒して奥につけるとパットは高い技術が必要になり、ホールアウトするまで気を抜けません。

このように自然の地形を活かした井上誠一の神髄のような個性的な美しいコースで誰もが気軽にプレーできることは有難いことで、井上誠一コース巡礼の一番札所にしてみては如何でしょうか? 都心から30分余りと至近な事もあり、人気が高いので予約はお早めに。

川崎国際生田緑地ゴルフ場

住所神奈川県川崎市多摩区枡形7-1-10
電話番号044-934-1555
ウェブサイトhttps://www.tokyu-golf-resort.com/kawasaki/