1980年代のポップ・アートを牽引したアーティストの一人、キース・ヘリング。2020年にはダイハツ「ハスラー」のCMに彼のイラストが使用されていたり、コラボレーションしたビニール傘がセブンイレブンで販売されていたりと、彼の作品は誰もが目にしたことがあるのではないでしょうか。
驚くべきことに、没後30年が経過した今なお世界中で人気を誇るキース・ヘリングの唯一の美術館が日本に、しかも自然豊かな八ヶ岳の麓にあるんです。
キース・ヘリング
キース・ヘリング(1958-1990)は1980年代アメリカの代表的芸術家で、アンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキアとともにポップ・アートを牽引したアーティスト。1980年にニューヨークの地下鉄構内の使用されていない広告板に自発的に描き始めた絵、通称「サブウェイ・ドローイング」がニューヨークの通勤客の間で話題になり、その名前が知れ渡りました。
キース・ヘリングが作品の主題としているのは”エイズ予防啓発”、”LGBTの認知”、”反アパルトヘイト”、”核放棄”など社会的・政治的なものが多いのですが、これは彼自身が同性愛者でAIDS感染者というマイノリティーな人生であることが大きく影響しているのでしょう。
また、キース・ヘリング財団を設立し、恵まれない子供達にHIVやエイズへの啓発活動を行う慈善団体への資金提供や、作品を通じてHIV感染を防ぐメッセージを出すなどAIDS撲滅活動を積極的に行った人物です。彼自身はエイズの合併症が原因で31歳でその生涯を終えました。
中村キース・ヘリング美術館
山梨県・八ヶ岳の裾野に2007年に建てられたキース・ヘリング美術館は、世界で唯一のキース・ヘリング美術館で、創設者で館長の中村和男氏が1987年から収集してきた約300点もの作品を楽しむことができる唯一無二の空間です。
1980年代の混沌としたニューヨークを生きたキース・ヘリングのメッセージを体感できるよう”闇から希望へ”というテーマの元、建築家の北川原 温氏により設計されました。ヘリングの作品を通じて”人間が秘める狂気”や”生と死”に向き合うことの出来る空間となっています。2015年には”思考から離れて感性のみで生きる”という禅の思想を包括した展示スペースを増設しました。
展示室に入る通路の奥に輝くのは、「ラディアント(燦然と光り輝く)・ベイビー」のネオン。これはヘリングがよく使うモチーフの一つで、彼のシンボルともなっています。
ラディアント・ベイビーを見ると辿り着くのが「闇の展示室」。アウトラインこそはっきりとしていてヘリングらしさを感じますが、イメージするヘリング作品とは異なった作品が並びます。この展示室ではキース・ヘリング初期の作品が展示され、彼が生きた1980年代のアメリカの影(インフレの悪化、経済の混乱、治安の悪化)と彼の作品が持つ影(人間の狂気)を象徴しています。
さらに進むと「グローイングの間」にたどり着きます。思い描くキース・ヘリングらしく、大胆なアウトラインと鮮やかな色使いで、闇を抜けた気がしてなんだかホッとしました。
グローイングの間の次に待ち受けているのは、美術館のメイン「希望の展示室」です。この展示室ではキース・ヘリングの作品にある”希望”と”夢”を象徴しているのだそうです。闇の展示室とは対照的に、部屋全体に明るい光が降り注いでいて、美術館のテーマ”闇から希望へ”を体感する瞬間です。
美術館の隣には、美術館と同じく北川原 温氏が設計したホテル「ホテルキーフォレスト北杜」が建ちます。この建物のテーマは”大自然とアートの調和”。山梨県一帯は縄文時代中期には日本の中心として栄えていたそうで、建築デザインは縄文文化からインスパイアされたもの。わずか6つの客室には、縄文時代に使われていたとされる言葉がそれぞれ使われていたり、それぞれ家具や照明が異なっていたり・・・好きなお部屋を見つけて宿泊するのも良いですね。
キース・ヘリングと言うと”ポップで楽しい”イメージがあったのですが、中村キース・ヘリング美術館を訪れた後は、彼の作品を通じて彼が主題としていた社会的・政治的問題に触れ、自分で考えるきっかけになり、彼自身へのイメージもガラッと変わりました。こうやって、考えることができたのは、この美術館がヘリングへの大きな尊敬と愛を持って創設されたからに他なりません。美術館として、HIVやAIDS予防啓発のイベント、国際絵画コンクール、災害募金など、へリングの遺志を継承する活動を行なっているのも素晴らしいですよね。決してアクセスが良いとは言えない場所にありますが、機会があればぜひ訪れてほしいスポットです。
中村キース・ヘリング美術館
住所 | 山梨県北杜市小淵沢町10249-7 |
電話番号 | 0551-36-8712 |
開館時間 | 9:00 – 17:00(最終入館 16:30) |
休館日 | 【定期休館日】なし 【展示替え休館】2022年5月9日(月)- 5月13日(金) |
入館料 | 【一般】1,500円 【16歳以上の学生】600円 【小人(15歳以下)】無料 |
ウェブサイト | ttps://www.nakamura-haring.com/ |