東急電鉄は東京西部のターミナル駅渋谷や目黒などを起点に横浜など神奈川県東部を結ぶ8路線・総延長約105kmの大手私鉄会社です。鉄道などの交通事業以外にも都市開発、住宅開発などの不動産事業や小売業、ホテル・リゾート事業などを手掛け、鉄道の乗客数、連結売上額や収益力は日本の大手私鉄業界でトップを誇ります。今回はその東急電鉄グループが運営するゴルフコースのご紹介です。
同社は日本の近代資本主義の生みの親である渋沢栄一が創設した「田園都市株式会社」の鉄道部門「目黒蒲田電鉄」が1922年に分離独立してから今年で100年を迎えます。1927年には姉妹会社である「東京横浜電鉄」がネットワークの中心である渋谷と横浜を結び、沿線では田園調布などの住宅開発が進みました。
その後も辣腕経営者である五島慶太が社長になると社名を「東京急行電鉄(東急)」と改称して事業拡大を図り、戦時統制も背景に周辺部にある小田急電鉄、京王電鉄、玉川電鉄、京浜急行、相模鉄道など私鉄30社余を合併・買収し、路線延長は実に320㎞に及ぶ「大東急」時代となりました。
しかし、終戦後は情勢が一変し「経済力集中排除法」等の施行や戦災復興の費用負担増加などから、各社が分離独立し大東急は事業規模の縮小を余儀なくされます。その後は戦後の人口膨張に対応し、再び同社のアイデンティティでもある田園都市構想を推進します。1907年開業の歴史を持つ渋谷と二子玉川を結ぶ路面電車であった旧玉川電鉄の路線を全面改修・地下化して地下鉄(東京メトロ半蔵門線)と結びました。
そして構想から30年後の1984年には新たな大動脈として多摩丘陵を貫く田園都市線を全通させて路線周辺地域の大規模な開発を行い、魅力的で好感度の高い街造りを成功させて日本有数の人気路線としました。
今では東急線の殆どの路線が地下鉄(東京メトロ)と繋がって都内へ乗り入れをしています。更にはその先で東武電鉄、西武電鉄とも繋がる事で、東京の北東部や埼玉県まで広がる巨大鉄道ネットワークとなっています。因みに同社のモットーは「日本一住みたい路線、東急沿線」です。
折しも創業100年の節目にあたる今年度末に、かつて大東急を構成していた相模鉄道と東急東横線の路線が繋がる「東急新横浜線」約10kmが開通し、神奈川県南西部と都心とを繋ぐ新たな広域鉄道ネットワークが形成され、沿線の利便性向上や活性化が期待されます。
更には同じく大東急時代の一社であった京浜急行の蒲田駅付近で東急線と接続する事で、拡大の続く羽田空港への新たなアクセス線となる「東急新空港線(通称蒲蒲線)」を建設する計画が前進する事も発表されました。
先月、東京都と地元自治体が建設費の自治体負担割合について合意し、今後東急などと官民で第三セクターを設立して2030年代の開業を目指す事になります。これが実現すれば東急東横線、目黒線に繋がり、更には東京メトロや東武・西武沿線など首都圏各地と羽田空港を結ぶ新たな鉄道ネットワークが誕生し東京の国際競争力強化にもつながると期待されます。東急100周年のスローガンは、「人へ、街へ、未来へ」なのです。
さて、鉄道以外にも多くの事業を展開する東急ですが、レジャー部門では日本各地で多くのゴルフ場の運営も行っています。その最高峰のコースは以前にこのブログでご紹介した神奈川県茅ケ崎市にある「スリーハンドレッドクラブ(1962年開場)」です。五島慶太の息子で東急グループの総帥五島昇が造り、先日凶弾に倒れた故安倍晋三元首相始め政財界の著名人が集う日本で最もエクスクルーシブなクラブと言われています。
東急グループでその「スリーハンドレッドクラブ」に次ぐクオリティーを持つのが今回ご紹介する「ファイブハンドレッドクラブ」です。
霊峰富士を仰ぐ静岡県裾野市の愛鷹山山麓に位置する丘陵コースで、富士山に加え駿河湾から箱根外輪山や伊豆半島の美しい山並みまで眺望することができます。
開場は1980年で既に40年以上の歴史を有しており、設計は当時既に高い評価を得ていた宮澤長平氏で、同氏はその後も姉妹コースの「セブンハンドレッドクラブ(1989年)」など多くの東急系ゴルフコースの設計を手掛けています。
当時東急の総帥であった五島昇社長の肝いりでこの地に新たなゴルフ場建設が決まりましたが、建設にあたっては名ゴルフプレイヤーでもあった五島氏の意向が多く反映されたと言われています。
宮澤氏が設計にあたり基本コンセプトとしたのは「初級者から上級者まで実力に応じて楽しめる」「プロの試合も可能なチャンピオンコースであること」そして「コースとしての品格や美しさを兼ね備えていること」だそうです。
そのコンセプトの一つであるプロの試合も出来るチャンピオンコースと言うことで、開場当初の1982年から1995年までの間14回に亘り、有名な女子プロトーナメントである「フジサンケイレディースクラッシック」の開催地となりました。1996年以降は会場を「富士桜」に移し、更に現在は「川奈ホテルゴルフ」で開催されていますが、1992年には岡本綾子プロが当コースで優勝を飾っています。
実際にラウンドするとプロだけでなく初心者から上級者まで男女を問わず多種多様な力量を持つプレーヤーが楽しむことも念頭においたコース設計になっている事が実感できます。
富士山麓に位置する事から敷地には約150mの標高差があるそうですが、巧みなレイアウトにより多くのホールは緩やかな打ち下ろしとなっており、登りのホールも高低差が緩やかで極端な打ち上げホールはなく、高低差を苦痛に感じることありません。
一方、コース全長は7,068ヤード(パー72)で各ホール距離もたっぷりあり、ティーショットを伸び伸びと打てる広々としたホールと、正確なショットが要求されるホールが巧みに配置されています。また、自然の地形を活かしたアンジュレーションと池やバンカーなどのハザード、多くの樹木を上手く配置する事により戦略性を高めています。
更に全てのホールにはそれぞれシンボルカラーと桜や紅葉、蘇鉄などシンボルとなる植物があり、四季折々の変化を楽しむ事ができ飽きることなくプレーできる設計です。
オープン当初はベントと高麗の2グリーンだったそうですが、現在はベント2グリーンに改造されています。
アウトコースはクラブハウスを境にして低いエリアに配置され、ドックレックや池越えなどがありますがフェアウェーは比較的フラットで、遠く駿河湾や伊豆半島の眺望が楽しめます。プレーヤーの印象に残るのはスタートホールと最終ホール、そしてショートホールであるとの設計者の思想からか9番ホールが名物ホールで、ティーグランド正目の富士山と白砂のビーチバンカーが印象的な池越えのショートホールです。
一方のインコースはクラブハウスより高い位置に配置され、変化に富んだ自然の地形を活かした戦略性の高いホールと富士山を望めるホールが多くあります。また18番ホールはグリーンの横の斜面に美しいツツジの植栽により500の文字が立体的に浮かびあがっており、シンボリックな最終ホールとなっています。
では各ホールを見て行きましょう。
1番ホール(548ヤード、パー5)クラブハウスの右手に広がる雄大なロングホールです。緩やかな右ドックレックの打ち下ろしで、広々としたフェアウェーはスタートホールの緊張感を感じなくて済みます。グリーン左手前には池があり注意が必要ですが、水辺を菖蒲など季節の花が飾っています。
2番ホール(382ヤード、パー4)続いて打ち下ろしのミドルホールで、左に大きくドックレックしています。飛距離に自信のあるプレーヤーはショートカットを狙いたくなりますが、まだスタートしたばかりでついついティーショットに力が入るとミスに繋がる危険があります。特にドローヒッターは無理せずに目標となる正面の木の上を狙いましょう。
3番ホール(340ヤード、パー4)スタート後初めて富士山を望める左ドックレックのミドルホールです。ティーショットは打ち下ろしですが、右手に谷があるので注意が必要です、その後のフェアウェーは広いですが緩やかに上っているので見た目より距離があり、大きめのクラブ選択が必要です。
4番(156ヤード、パー3)はフェアウェーに棕櫚や蘇鉄が多く植えられ、南国情緒が漂う美しいショートホールです。緩やかな打ち下ろしでフェアウェーも広く、思い切ってピンを狙えますが、グリーンの周囲にある植栽に打ち込まないよう注意が必要です。
5番(509ヤード、パー5)は緩やかに上っているロングホールで、フェアウェー右手には桜の大木があり春はとても美しい印象的なホールです。グリーン手前にもフェアウェーの左右に門のような松の木が立ち、その先のバンカーも深いのでアプローチには気を使います。
6番(411ヤード、パー4)はフェアウェーが広々とした緩やかな打ち下ろしで、距離が長いミドルホールです。パーを取るにはティーショットを飛ばして距離を稼ぎたいホールです。
7番(315ヤード、パー4)今度は距離の短いミドルホールですが、右に大きくドックレックしているので、ティーショットは距離よりも確実にフェアウェーセンターを狙う事を勧めます。左右に桜の並木が続く美しいホールです。
8番(430ヤード、パー4)距離の長いミドルホールで、しかもティーグランド正面は深い谷がありティーショットはプレッシャーを感じます。コース中で最も難しいホールだと思います。
9番(160ヤード、パー3)苦しかった8番ホールを終えると富士山と美しいサンドグリーンの印象的なショートホールが待っています。最近の改造によりティーグランドが左右に広く拡張され、富士山がより良く見えるようになりました。しかし、見た目より距離がしっかりあるので少しでもショートすると池に捕まり、更にグリーンが横に長く周囲を7つものバンカーがガードしているので、正確にグリーンを捉えるショットが求められます。美しいものには棘があると言うことを実感するホールでもあります。
プレーヤーの数が限定されているコースなので18ホールをスルーで廻る事も出来ますが、一休みしてのランチも楽しみです。クラブハウス内のレストランは清潔感のある落ち着いた佇まいで、食事はホテルのレストランを思わせる美味しい洋食です。季節の良い時は眺望のよいテラス席で心地より風を感じながらのお食事がお薦めです。
10番(428ヤード、パー4)後半は距離の長いミドルホールから始まります。緩やかな打ち下ろしでフェアウェーも広く思い切りドライバーを振る事が出来ます。やや右ドックレックですが右手の斜面にから延びる大きな木々には注意が必要です。またアプローチに距離が残りますが、グリーン奥は直ぐにOBなので必ず手前から行きましょう。
13番(390ヤード、パー4)は緩やかに右にドックレックし、やや上りのミドルホールで、距離が長く感じられます。フェアウェーの先に富士山が少し顔をのぞかせてくれます。
14番(528ヤード、パー5)緩やかに下るロングホールですが、何と言ってもこのホールから見る富士山が一番綺麗です!富士山は後ろ側に見えるので、振り返りながらゆったりした気持ちでラウンドしたいものです。グリーンで富士山とのツーショットもお薦めです。
15番(356ヤード、パー4)やや打ち上げで右にドックレックしているミドルホールです。今度は富士山に向かってショットを打つことになります。
16番(186ヤード、パー3)はグリーンの右手前から池が張り出しているショートホールで、右のBグリーンを使う日はプレッシャーを感じますが、意外に池とグリーンの間に距離があります。グリーンに乗ってからティーグランド方向を振り返ると、池の向こうに美しい富士山を見る事ができ、太平洋クラブ御殿場コースの名物17番ホールを彷彿させる印象的なショートホールです。
17番(532ヤード、パー5)は広々とした打ち下ろしのロングホールで、思い切りドライバーを振る事が出来ます。グリーンの奥には鹿の家族が暮らしているのか、時々その姿を見かけると穏やかな気分になります。
18番(348ヤード、パー4)は左ドックレックでティーグランドの左側には山がせり出しているので、ティーグラウンドからグリーンやクラブハウスは見えません。フェアウェーの左手の斜面にはコースのシンボルである500を模ったツツジの植栽文字が姿を現し、最終ホールであることを印象づけてくれます。
このように富士山を効果的に見せるなど景観を含めたコースの美しさのみならず、簡素な造りながら太い木の柱が印象的な風格あるクラブハウスや、従業員の対応においても十分に品格を感じる事ができる名コースです。
富士山の南斜面にあることから冬でも比較的温暖で、冬でも快適にプレーできる日が多いです。(因みに正月はティーマークが門松の形となります)
一年を通じて富士山の様々な姿を楽しみながらプレーの出来るファイブハンドレッドクラブ、東京から東名高速道路裾野IC経由で約1時間40分、新幹線なら東京から三島駅経由で約2時間と少し時間はかかりますが、ここに来きてプレーする価値は十分にあります。
ファイブハンドレッドクラブ
住所 静岡県裾野市千福953-2
TEL 055-993-0500