複雑に入り組んだリアス式海岸線と小さな島々が点在する美しい英虞湾は真珠の養殖地としても世界的に有名です。そこには美しい景観を巧みに利用した滞在型のシーサイドリゾート「ネムリゾート」があります。開発したのは静岡県浜松市に本社のある世界的な楽器メーカーの「ヤマハ」でした。
「ヤマハ」は大阪で時計造りや医療機器の修理を手掛けていた山葉寅楠氏が1887年に浜松を訪れ尋常小学校の壊れたオルガンを修理した事をきっかけに「山葉風琴製造所」を創業します。当時のオルガンは全て輸入品の高価な楽器だったので、その修理をきっかけに構造を理解すると自らオルガン製造・販売を始め、1892年には日本初となる海外への楽器輸出も始まりました。
1897年「日本楽器製造株式会社」を設立し1900年にはピアノ製造も開始しました。当初オルガンは出来ても音律が合わず使用に耐えずとまで言われ、その調律に苦労した事から音叉を会社のロゴにしたと言われます。
戦時中は陸軍管理下の軍需工場となりますが、戦後は復興景気と民需拡大の波に乗り1954年オートバイ製造に乗り出すと共に(現「ヤマハ発動機」)、1959年には電子オルガンの代名詞とも言える「エレクトーン」を発売します。その後は管弦打各種楽器、ステレオ等の音響機器、ゴルフクラブ等のレジャー用品、半導体等の電子部品、木工パネル等の自動車部品、産業機器等の製造を開始して世界的な大メーカーとなりました。
特に楽器の代表でもあるピアノでは1968年に生産台数世界一となり、その品質も最高峰と評されています。そして創業から100年後の1987年に現在の「ヤマハ株式会社」に社名変更し、ヤマハ音楽教室やコンサートホール、音楽ソフト事業なども手掛けています。
「ヤマハ」はこれらの事業を背景に音楽やスポーツを楽しめるリゾートホテルとスポーツ施設やマリーナなどのレジャー施設、音楽スタジオやステージなどのミュージックキャンプからなる複合施設として1967年三重県志摩市に「合歓の郷」、1974年には静岡県掛川市に「つま恋」などを開業しました。
「合歓の郷」では1969年から1974年までヤマハ音楽振興会主催の「ヤマハポピュラーソングコンテスト(ポプコン)」が開催され(その後は「つま恋」に会場を移し1986年まで開催)、優勝者は自動的にレコードデビューが約束されるなど当時ミュージシャンの登竜門であり、その後メジャーとなる多くの有名歌手や時代を象徴するヒット曲を生み出しました。
1989年その中に「合歓の郷ゴルフクラブ」が開設されました。コース設計の監修はヤマハ中興の祖とも言われヤマハの剛腕社長であった川上源一氏です。
しかし、ヤマハはバブル崩壊の影響により業績が悪化し、リゾート事業から撤退を余儀なくされ2007年「合歓の郷」を含めたリゾート事業は三井不動産に譲渡されました。
その後施設の大規模な改修が行われ、2017年「NEMU RESORT」と改称、ゴルフ場も「NEMU GOLF CLUB」と改称されました。
リゾートの大規模改修と合わせてゴルフコースの大改修も行われ2015年にリニューアルオープンしました。
改修を担当したのはカルフォルニアの「ラコスタカントリークラブ」や日本でも「小樽カントリークラブ」などの改修を手掛けた全米ゴルフ場設計家協会の元会長ダミアン・バスクーツオ氏とPGAツアープロのスティーブ・ベイト氏の2Pゴルフコースデザイン会社です。また日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)会長小林浩美プロが監修しています。
改修にあたっては滞在型リゾートコースに必要なものは何かと言う問いかけから、練習場の充実と言う結論が出たそうです。それは「ラウンド前後にしっかり練習したい」「短期集中でゴルフレッスンを受けたい」「子供にゴルフを教えたい」「家族と過ごしながらせめてゴルフ練習はしたい」と言った多様な過ごし方の希望に沿ったものです。
また将来のプロトーナメント開催も視野に入れ、芝の上からボールを打てる打席と十分な距離のあるドライビングレンジが必要である事も考慮しているそうです。更に様々な状況のショートゲームが練習できるスペースも求められました。
この練習場充実と言うテーマを解決する為に前代未聞の大胆なコース改修が行われました。
まず、コース右端にあった10番ホール(パー4)を閉鎖してドライビングレンジに変更し、17番(パー5)をパー3とパー4に2分割すること。もう一つがそれまでの全長150ヤード程のドライビングレンジをショートゲーム用の練習場に転用すると言うものです。
その結果、全長300ヤードと十分な距離があり芝から打てる18打席のドライビングレンジが誕生、練習場と言うより普通にコースで打っている感覚です。また従来からあったグリーン2面とバンカー3つを備えたアプローチ練習エリアに加えて、旧ドライビングレンジ跡地を転用したショートゲーム専用の練習場に生まれ変わりました。ラウンド前後の練習は勿論、宿泊してゴルフ練習を楽しむと言う滞在型リゾートのニーズにも応えられ、また将来のプロトーナメント開催が可能な練習施設が整備されました。
一方で18ホールのコースセッティングはOUTがパー3ホールが3つのパー35、INがパー5ホールが3つでパー37と言う変則的な組み合わせになりましたが、それは大きな問題ではないでしょう。
むしろ改造により練習場の拡充だけでなく、挑戦的な海越えホールなどシーサイドコースとしての魅力が増したそうです。
リゾートコースらしくGPSナビゲーションシステム付きの二人乗りセルフカートで、フェアウェイにも乗り入れて景色を楽しみながらラウンドする事が可能です。
それでは印象的なホールを見て行きましょう。
1番ホール(469ヤード、パー5)はクラブハウス正面からのスタートホールは印象的な景色の打ち下ろしパー5ホールです。緩やかに右へカーブするコースの右手には大きな池が待ち構えています。フェアウェイの左側から池を上手く避けながらグリーンを狙う必要がありますが、池の先からグリーンまでは距離が短いですが上り傾斜で距離感を掴むのが難しいです。
3番ホール(143ヤード、パー3)は広々としたパー3ホール。打ち下ろしなのでグリーン面も良く見え距離も比較的短いのでバーディーも狙えるホールです。
4番ホール(375ヤード、パー4)左に緩やかにカーブするパー4で、フェアーの左右にはクロスバンカーが並び、右側は見た目より距離は無く突き抜ける可能性があるのでボールの落としどころには注意が必要です。
5番ホール(499ヤード、パー5)4番と同様に途中から左にカーブするパー5で、やはり左右にはクロスバンカーと木々が並びます。フェアウェイ途中から打ち下ろしになりますが、グリーン周りには大きなガードバンカーが待つハンディキャップ1の難ホールです。
6番ホール(164ヤード、パー3)フロント9で最も印象的なパー3ホールです。左右を大きな池に挟まれて伸びるフェアウェイとその先にあるグリーンはまるで半島、真っ白な巨大ガードバンカーは周囲に立つパームツリーと共に南国の岬に繋がるビーチのようです。
絵のように美しい景色を見ながらのティーショットはプレッシャーを感じますが、しっかり打って右側からグリーンを捉える必要があります。
7番ホール(378ヤード、パー4)広々としたフェアウェイで伸び伸びとティーショットを打てますが、出だしはやや上り傾斜が続くのでやや距離が長く感じられるホールです。
8番ホール(149ヤード、パー3)ティーイングエリアからグリーンまでの間の左側は池、右側は大きな木がせり出してきているので、真っすぐなボールでグリーンを捉える必要があります。グリーンの奥には3つのガードバンカーが並び、意外に手強いパー3ホールで油断できません。
9番ホール(345ヤード、パー4)フロント9の最終ホールは比較的距離の短いパー4ですが、グリーンに近づくにつれてフェアウェイが狭くなり、グラスバンカーでフェアウェイが途切れ、その先に大きなガードバンカーも待ち換えているので最後まで気が抜けません。
10番ホール(390ヤード、パー4)バック9のスタートは比較的距離の長いパー4からです。ややフェアウェイは打ち下ろしで広々しているのでストレスなく打てますが、グリーンの右手前から奥には池が広がっているのでアプローチは飛び過ぎに注意が必要です。
11番ホール(495ヤード、パー5)ティーイングエリア右前に池があり、左側には木々が立ち並ぶのでティーショットはプレッシャーを感じます。池を越えればフェアウェイは広くフラットなので伸び伸びとプレーできるホールです。
12番ホール(361ヤード、パー4)打ち上げでやや左にカーブするパー4.セカンドショットから打上げになりますが、クロスバンカーなど障害物はなくパーを狙えるホールです。
13番ホール(141ヤード、パー3)は広々としたパー3ホールでプレッシャーを感じることなくティーショットを打てますが、ガードバンカーが深いので落とさないように注意が必要です。
14番ホール(398ヤード、パー4)右に大きくカーブした打上げホールで、右手には海がフェアウェイに入り込んでいるので左側からグリーンを狙う必要あります。比較的距離も長くハンディキャップ2番の難ホールです。
15番ホール(339ヤード、パー4)ティーイングエリアに立つと右手に美しい海が広がるコースで最も印象的な美しいホールです。
海を望む休憩所やベンチなどもあり、英虞湾の絶景を楽しむ事が出来ます。更に朝一番スタートの組に限り、隣の16番ホールのグリーンに向けて海越えのショットにチャレンジできる特権もあり、リゾート気分を満喫できるホールです。
フェアウェイは右に向かってカーブし、更に右手の海に向かって傾斜しているのでティーショットの際には注意が必要です。しかし、セカンド地点からティーイングエリアを振り返るとまた海越しにティーイングエリアを望める絶景が楽しめます。
16番ホール(494ヤード、パー5)今度は海に向かって緩やかに右へ打ち上げて行くパー5ホールです。グリーンは海に突き出たところにあり、飛び過ぎると海に落ちるので注意が必要です。朝一番の組は隣の15番ホールから狙えるのがこのグリーンです。因みに最近このリゾートコースをお忍びで訪れてプレーしたアメリカの人気歌手ジャスティンビーバーはこのホールでバーディーを取ったそうです!やりますね!
18番ホール(548ヤード、パー5)最終ホールはコースで最も距離の長いパー5です。
広々としたフェアウェイは緩やかに右へカーブし、途中にはクロスバンカーが点在します。
プレッシャーを感じることなく伸び伸びとボールを打つことが出来るホールで、気持ち良くホールアウトする事ができます。
クラブハウスもファッションブティクやダイニングなどを手掛ける空間デザイナー森井良幸氏の下で全面リニューアルされたそうで、上品でお洒落な雰囲気です。
ゴルフと合わせてリゾート気分を満喫できるのが併設している「ホテルネム」です。 全室47㎡の広々とした客室からは大きな窓越しに伊勢志摩の青い海や深い緑の景色が眺められます。また敷地中から湧く「潮騒温泉」では肌の浄化と再生、癒しと言う趣向を凝らした三種類の自然の恵み巡りを楽しめ、心身ともにゴルフの疲れを癒す事ができます。
ホテル内のダイニングでの食事も伊勢海老や鮑など伊勢志摩を代表する新鮮な海産物や、産地が近い松坂牛など良質な素材を使い、味覚と共に盛り付けや彩にも拘った料理を楽しむ事ができます。また、季節の良い時にはアウトドアダイニングも楽しめます。
その他にも併設されたマリーナからのクルーズ、フィッシングなどマリンプログラムやスターウオッチや焚火体験などのネイチャープログラムなども用意されており、ゴルフ以外にも様々な楽しみがあって滞在中飽きる事がありません。
勿論、周辺にも伊勢神宮や二見ヶ浦と言った日本を代表する観光地や隠れた絶景ポイントも散在し、リゾートの行き帰りに楽しむことが山のようにあります。
また、ここ伊勢志摩では2016年に第42回先進国首脳会議(G7 Summit)が開かれ、アメリカのオバマ大統領始め各国要人が集まりました。また会議終了後には首脳が揃って伊勢神宮を訪問するなどして日本の文化伝統に親しみ、親交を深めました。当時の様子は「伊勢志摩サミット記念館」や主要ホテルなどの記念施設で偲ぶことが出来ます。
伊勢志摩で太古の昔から続く神々の世界から現代のリゾートにワープするような不思議な感覚を楽しんでしてみては如何でしょうか?
NEMU GOLF CLUB
住所 | 三重県志摩市浜島町迫子2692-3(伊勢志摩国立公園内) |
電話番号 | 0599-52-1103 |
ウェブサイト | https://www.nemuresort.com/nemugolf/ |